携帯小説『金木犀』

恋愛ものの小説(フィクション・ノンフィクション)や、時事コラムなどを思いついた時に書いてます!お時間あれば時間潰しになればと思っております!

STORY10 伊豆旅行〜動き出した恋〜

STORY10 伊豆旅行〜動き出した恋〜



事件翌日の朝6時。


廊下の看護師どうしの会話で目が覚めた俺。

左に顔を向けると、俺の横には疲れ果てて眠りに落ちるまりえの姿があった。

向かい側のベッドには健三が眠っている様だ。

俺の動きでまりえが目を覚ます。

「ケイタ!?だいじょーぶ!?痛いとこない?」

「ぉぅ…。なんとか…だいじょーぶだわ…。」

「今看護師呼んでくるからっ!」

頭部に巻かれた包帯を気にしながら起き上がる俺。

「おぃっ!健三!!お前起きてんのかぁ?」

すると健三は、軽く右手をあげて反応する。

「まーったく…金属バットはねぇよなぁ…頭痛ぇしよぉ…。」

「まぁ死ななかっただけでもいいべ!あいつら全員お縄だったわけだし…。」

「まぁなぁ。そぉ言えば康太だいじょぶだったかなぁ?」

ゆっくり身体を起こしながら健三。

「あいつはだいじょーぶだべ!おぃおぃ…お前起きてだいじょーぶなのかよっ!?」

「早く退院して飲みてぇよ!」
と苦笑いで健三。

「お前は病院でも酒の話かよっ!?」
少し呆れる俺。


健三との軽い会話が終わると同時に看護師とドクター、まりえが部屋に入ってきた。

看護師が血圧を測る中。

「CTで異常がなかったし、数日様子見て退院できると思いますよ。」

とドクター。

「ほんっとっ!昨日心配で心配で!ケイタ!死んじゃうかと思ったんだから!3時間泣き続けたんだから…。」

と今にも泣き出しそうなまりえ。

「まりえ!ケイタは死なねーよ!俺だよ…死にかけたのは…。」
と、苦笑いで健三。

「まったくっ!2人とも心配かけ過ぎなんだって!」
と、まりえ。



健三もCTで異常は見られず数日で退院できるとのことだった。



午前、10時頃。


「ちぃっーす!」
「なーんだ!起きてんじゃん!」
「だいじょーぶそうだね!」

康太、カズサ、レミが見舞いに訪れる。

「康太!お前!『ちぃっーす!』じゃねーよ!お前はだいじょーぶだったのかよっ!?」

「俺!?俺はだいじょーぶだって!お巡りには事情聞かれたけど、お咎(とが)め無しだってよ!健三も大丈夫そぅだし良かったなっ!」
と、康太。

「相変わらず康太は、喧嘩だけは強いわなぁ!酒はクソみたいに弱いけどな…!」
と、健三。

「まぁなぁ!しっかし!ケイタ!お前あの場面で、よくまりえの事が世界一好きだ!なーんて言えたなっ!?」
と、康太。

「おまっ!お前!まじで!うるせーからっ!」
舌を散りながら俺。

「えっ!?なんのことっ?」
まりえは、少し不思議そうに顔を赤らめる。

「まぁまぁまぁ…この話はいいって!康太も余計な事言ってんじゃねーよっ!」

「はいっ!はいっ!分かりましたよっ!」

「えっ!?なんのことなのっ!?ケイタ!言わないと頭叩くからねっ!ほらっ!早く言いなさいって!」

「えっ!やめろって!まじでっ!!あとで話すからっ!」


病室内に6人の笑い声がこだまする。



一週間後、俺と健三は無事退院した。






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カフェ一階喫煙所。

昼下がりに康太とタバコを吹かす俺。

「あっーー!やっと退院できたわぁ!やっぱタバコも酒もうまいなぁっ!」
背を伸ばしながら俺。

「お前には休肝日必要だから、丁度よかったべ!それと…ケイタはもぉ少し喧嘩強くなんねーと、いざって時にまりえ守れねーぞ!」

「喧嘩はもぉいいってぇ…。痛ぇだけだし…。」

「まぁなぁ…。そう言えば、話変わっけど伊豆旅行近くなってきたなぁ!」

「今日の夜俺のアパートで会議だなっ!」

「おぅっ!!楽しみになってきたわっ!」


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伊豆旅行当日。


那須の時と同様、ハイエースを借りて伊豆へ出発。


出発して6時間、伊豆へ到着した俺たちだったが…。

なぜか、カズサと康太の言動や雰囲気が、腑(ふ)に落ちない俺。

車内では、カズサから積極的に康太へボディタッチ…。
パーキングエリアでも康太から離れないカズサ。

運転しながらバッグミラー越しに、2人の関係性に首をかしげる俺。



無事ホテルに到着。


「あっーーっ!疲れたっ!やっぱさすがに伊豆は遠いなぁっ!」

「ケイタ!運転ご苦労様!」
とまりえ。

「これから、ぶっ飛ぶぐらいの景色見れるんだろっ!?しかも、温泉も料理も楽しみだし、疲れも飛ぶだろって!」



弓なりに続く海岸線沿い、目の前の防風林を挟んで15階建てのホテルが佇(たたず)む。


エレベーターはスケルトンで、夕日が波に反射する度キラキラと輝き、俺たち6人の顔を赤く染める。


夕食。

「さぁて!飲むぞー!食うぞー!」
今にも走り出しそうな勢いの健三。

「かんぱーいっ!」
大きな声で乾杯コールをする康太。

「めっちゃおいしそぉっ!あたし、日本酒飲もっかな!」
レミはいつもは飲まない日本酒に手を出している。

「すいませんっ!生ビール2つ!泡なしとかできますか!?」
カズサは既にジョッキ2杯を開けていた。

「ねぇっ!レミもカズサもだいじょーぶ?そんなに飛ばして…?」
2人を気遣うまりえ。

「だいじょーぶ!だいじょーぶ!まりえも飲んじゃいなよっ!すいません!ハイボール1つ!」
俺も飲むスピードが徐々に上がる。



結局、レミとカズサは飲み放題が終了する頃には泥酔状態。

「ねぇ…。レミもカズサもだいじょーぶ?だから言ってたのに!ほらっ!ちゃんと歩いて!」
まりえはカズサとレミの介護担当だ。


それを見ながら呆れる男3人。

「カズサ…お前飲み過ぎだよ…。」
特に呆れている康太。

「飲み足りないなら、下の居酒屋で飲んできなよっ!私、この2人診てるからっ!」
とまりえ。

「えっ!いーの?」

「たまには男3人で飲んできなよ!」



男3人で一階に併設してあった居酒屋で飲み直す。


小一時間ほど経ったか、明日の観光について相談する3人。



俺の携帯にまりえから突然連絡が入る。

「カズサが…カズサがいないの!!私、自販機行ってる間に居なくなっちゃったみたいで…カズサ相当酔ってたし心配だよ!」

「はぁっ!?まじで!!まーためんどくせぇ事になりそぉだな…。」

電話きると同時に、健三と康太に電話の内容を伝える俺。

すると突然、康太が立ち上がる。

「俺ちょっと探してくるわっ!」

康太の表情は緊迫した様子だった。

「あいつ…どぉした…?急に。」
俺と健三は顔を見合わせ、同時に首をかしげる。


康太はホテル中を探し回ったようだ。

俺と健三も仕方なく一階周辺を探し始める。

「あいつ…飲み過ぎるといつもこうなるんだもなぁ…。」
ため息をつきながら健三。

「まーたその辺で油売ってんだろ…。」



すると、康太がエレベーターから降り、まっすぐサービスカウンターへ走る。

「すいません!数分前に浴衣着た、このぐらいの女の子外出て行きませんでしたか?」
身振り手振り説明する康太。

「あっ!10分ぐらい前に、髪の長い女性が出ていったかもしれません!」

「そぉっすか!!ありがとぉっす!」

康太はその情報を得るなりエントランスから走りだす。


俺と健三も後を追いかけた。


遠くから、康太がカズサを呼ぶ声が聞こえるが、その声は徐々に小さくなっていく。

「なっ!?健三!一回戻るべ!もぉ帰ってるかもだし…。」

「そぉだなぁ…。俺らが迷子になりそぉだも。」

俺と健三はホテルへ戻ったが、依然カズサの姿は無い。



防風林内。

「おーーぃっ!カズサーーっ!」
康太は焦りつつ、携帯の光一つを手掛かりにカズサを探す。



「おーーぃっ!カズサーーっ!」










「あっ!康太!」


「おいっ!カズサっ!!お前はなんで1人で行動すんだよ!心配かけんなって!!」

「ごめん…。酔いすぎて、風に少しあたろうと思ってさぁ…そしたら足くじいちゃって…。」
浜辺のベンチに座りながらカズサ。

「まったくっ!!背中乗れよ!!ほらっ!!」
舌を散りながら康太。

「ぅん…。ありがとぉ…。」





15分後、康太はカズサを背負いながらホテルに戻ってきた。


その後カズサは、5人から説教を受けたのは言うまでもない。





次の朝。


「昨日カズサのせいでうまく酔えなかったなぁ…。」
と苦笑いの健三。

「あいつはトラブルメーカーだからなっ!さぁて!リッチな朝飯食って観光でもすんべよ!」






湘南海岸。


カズサは昨日の足の挫きもなんのそのはしゃぎ回る。


海辺で、謙三が口を開く。

「なぁーケイター?カズサの昨日の怪我はどぉなってんの?あいつ何でも無かったかのように走ってるけど…。」

「あー?知んねー?」

と、俺は即答。

「まりえは?」

「私も分かんないけど、まぁー、いーんじゃないっ!楽しそうだしっ!」


「まぁー!そーだなぁ!」

口を揃えて、俺と謙三。

「なぁーケイター?俺生ビール飲んでもいーかぁー?」

「つーか、よく昼間から飲めるよなぁー!」







少し季節外れの海で6人。カズサとレミは、張り切ってビキニだ。まりえは焼けるし、恥ずかしいからって短パンとティシャツ姿だった。

まりえは、泳ぐのが不得意だったっけ…。いや、金槌だった気もする。


「まりえー?海入んないのぉー?」

「私はいーやぁー。寒いしっ!」

「俺も寒いしやめとくわ!あっ!砂山でも作ろっ!」



まりえと砂山を作って遊んだ。子供にでも戻ったかのように2人は山を積み上げる。

「ねぇねぇ!ケイタ?この棒を倒したほうが負けねっ!」

「よしっ!のったぁ!負けた方は罰ゲームだからなぁ!砂埋めの罰ゲーム!!」

「いいよぉ〜!絶対負けないから!」
とびっきりの笑顔のまりえ。


「あー!倒したぁ!ケイタの負けぇ!罰ゲーム決定っ!!」

「まーぢかぁ!今のズルじゃねぇ?絶対!ズルだからっ!」

「ケイタ!男は正々堂々と、負けを認めるの!」

「はい、はい!わかりましたよっ!」


謙三とレミは、海に入ってじゃれあい、カズサは依然として康太の後ろを追いかけ続ける。



潮の匂いが夏の思い出として、俺たちの心に焼き付いた。



カズサは何をするにも康太だけを誘い出す。

「ねぇー康太!浮き輪借りてこよーよ!それからさぁ!ホットスナックも食べたい!」




あからさますぎないか…。
確かに始めて喫煙所で会った時にも、
「かっけぇ!まぢでかっこよすぎるんですけど!」
と、おどけていたが…?

これが女の子の、恋のスイッチが入ったら止まらないという現象なのかもしれない。

やはり、あの事件後から始まった恋なのか…。

カズサは恋多き少女に見えた。


夕暮れ、湘南周辺、俺が運転する車内。

助手席に座るまりえの顔に夕陽があたって、いつもより色っぽく見えた。

「ほらっ!ケイタ前ちゃんと見て!信号青だよ!全く!」

「あっ!ぅん。わりぃ。」と俺。

すかさず、後部座席に座ってた健三が、
「おっ!新婚さんの車内喧嘩!よっ!初喧嘩じゃねーのぉ?『前みな!』だってさぁ!」

「謙三君!あんまりからかうと、ここで降ろしてくかんねぇ!」

とまりえ。

そんな会話も1時間ぐらいだったろうか、はしゃぎ過ぎた後部座席組は、高速に乗る前に睡魔に負ける。

「なぁ、まりえ?楽しかったなぁー!今度は2人で来たいなぁ!なーんか、楽しい事は、やたらと早く過ぎるけど…。旅行は帰るまでが旅行!ってかぁー。」

「ねぇ!それって遠足は、家に帰るまでが遠足じゃないのぉ?」

と、まりえは大笑い。


「ぅん。何かケイタとの思い出が一つ増えたような気がして、よかったなぁ…。そぉだ!帰ったらカメラ現像しないとね。アルバムでも作ろうっかなぁ!」

「おー!!いいね!伊豆旅行の写真ってまとめてさぁー!まりえ豆そうだから、沢山アルバムできそうだなぁ!」

「ぅんっ!帰ったら張り切るんだからっ!」
とそっと笑った。

パーキングエリア。
外でタバコを吸ってると、3列目のカズサと康太が、そっと手をつなぎ、片を寄せ合いながら寝ていた。




やっぱりこいつら…。




(あっちに帰ったら、新カップルでもできそうだな…。)
心の中で呟く俺だった。


運転席に戻ると、まりえも眠っていた。
寝顔が愛おしくて、唇から少し見える八重歯が、可愛いらしかった。

宇都宮に入る頃、まりえが起床する。

「あっ!ケイタ?ごめんね。私、いつの間にか寝ちゃった。」

「うーうん。だいじょぶ!あっ!寝顔携帯で写メったから!」
悪巧みを考える様に俺。

「ケイタ!それ、早く消して!」
と、運転席側まで身を乗り出すまりえ。

「あっぶねぇ!事故っから!だいたいまりえの寝顔は、いつも見てるでしょーがぁ!」

「まぁ、そうだけど…それとこれとは違う!」

恋人同士のどこにでもある普通のやり取りなのだが、小さくて幸せな思い出が次々と積み重なっていく。

あの瞬間に戻れる術(すべ)があるのなら、一度だけでもいい…一度だけ戻りたい……。







月曜日、カフェ一階。


いつものように、カフェで6人。



カズサと、康太は依然友達の様だ。






喫煙所。


「おつかれー!」

「おっ!おつかれぇー!伊豆楽しかったなぁ!」

「つーかよ…少し聞き辛いんだけど、俺見ちゃったからさぁ……。伊豆の帰りの車内…。」

と神妙な趣で俺。

「やっぱ言うーと思ったわぁ!いやー!俺も気づいたら手を握ってて…ほんと何でもねぇから!」

と誤魔化す康太。



すると、そこにカズサ登場。







「なーにぃ?内緒話?2人で…。」

「いやいや!伊豆楽しかったねって話だよ!」

康太は、何もなかったかのように、話を飛ばした。

(さすが!康太!)
と、心の中で…


カズサは場所を考えずに、突然思いもつかない様な言葉を発する。



「ねぇ?康太?今日の夜空いてる?」

とカズサ。

「いや、何もねーとは思うけど。なんでぇ?」

「フラワーに飲み行かない?」

俺は空気を察した。

長いタバコを無理矢理揉み消し、何か思いついたかの様にカフェへ戻る。


カズサと康太は、その夜フラワーに行ったようだった。


そして…。


その夜……。






「なぁー!まりえー?俺今日喫煙所で、ちょっと面白い話聞いたんだけどぉ…。」

「えっ!?なにっ!なにっ!」

「カズサが康太を、なぜか単独で飲み誘ってたぁー。」

「えっ!?ほんとぉっ!?ねぇー?それ康太君行ったのぉー?」

「たぶん…。」


そんな噂をまりえと話してると…。






ピーンポーン!







まりえがのぞき穴から確認し玄関ドアを開ける。




そこには……。





大泣きするカズサが立っていた。





「まりえぇ………。私振られた…………。」




鼻水をすすりながら、ゆっくり言葉を絞り出すカズサ。



「とりあえず入りなよ。外寒いでしょ?」

と、まりえ。

まりえは、カズサの判断が付きにくい言葉を一から丁寧に聞いている。

言葉の端々に濁点が付いてるかのよーな言葉を。

俺は冷蔵庫から缶ビールを出して、カズサの前に無言で置いた。

鼻水をすすりながら、カズサは缶ビールを開けて、グッと飲み干した。

「まりえありがと。わたし、少し楽になったよぉ…。私、康太のことがいつの間にか、好きになってた…。あの事件の時から……。伊豆旅行中も、ずっと隣に居たし、一緒にいればいる程、好きになっていった。でもねぇ…。ただそれが恐くて。この関係が崩れるのが恐くて……。好きになればなるほど、臆病になって。ただ、早くこの気持ち伝えないと、更にハマり混むと思ってさぁ。ただ、康太には、今好きな人がいるみたいでさぁ…。」


「えーぇぇー……!そぉだったんだぁ…。好きな人って誰なのっ?カズサも知ってるのぉ?」

とまりえ。

カズサがしばらく置いて、













「レミ……。」


プッーッ!!!

俺は飲んでたビールを吹き出した。

(オイオイ…まぢかよ。健三だぞ。いや、未だ健三のものではないが、これは大変な事になりそうだ……。グループ内で、三角関係、トライアングルだぞ。健三が聞いたらなんていうか。)


俺は、口にできない言葉を、こころの中で呟き続けた。

「えぇ!!!レミ……!?えっ!でもさぁ!レミは今どんな感じなのぉ!?」

と、冷静過ぎる言葉を返すまりえ。


(いや、マズイだろ…。健三とレミはカップル同然だし、これ以上話を煽(あお)らない方が……。)


また、心の中で呟く俺。

「でも、それはそーだとしてもさぁ!カズサ応援できるの?」

とまりえ。

(言っちゃった…。)

再び心の中で。


「ぅん。心の中で整理ついたら。応援できそぅ。」
とカズサ。




カズサは、まりえに伝えたい事を片っ端から並べ、スッキリしたような表情でアパートを去る。

「じゃーねぇー。まりえ、ありがとっ!つーか、ケイタは落ち込んでる女の子にビール飲ませんなしっ!」


俺はカッとなったけど、まりえが右肘を抑えたから、我慢できた。