携帯小説『金木犀』

恋愛ものの小説(フィクション・ノンフィクション)や、時事コラムなどを思いついた時に書いてます!お時間あれば時間潰しになればと思っております!

STORY11 男同士の約束

STORY11 男同士の約束

『衝撃の事実』から一夜明けた午前8時。




大学へ通学する車内。

「ねぇ?ケイタ?昨日の話だけどさぁ…。どぉしようね…。しかもさぁー。絶対気まずいよね?康太はレミを好きって、カズサに伝えたんだもね?大丈夫かなぁ…。」

「いやぁ…。なるようになるしょ?だって…。康太がカズサを振ってさぁ…。レミを好きになった事は、紛れもない事実だしなぁ…。ただ、謙三が、その事を知った時にどういう反応見せるかだよなぁ……。」

「んー…。確かに…。謙三は、まだこの事実知らないもねぇ?」

「たぶん…。知らないんじゃない?まぁ…。あとはカフェであいつらがどういう反応するかどうかでしょ?」


2限の講義前、カフェに顔を出す俺とまりえ。

康太が1人カフェの隅で、テトリスをしている。


「よぉっ!康太!おはようさん。」


まりえも気を使いつつ軽く手を振る。

「おぅ!ケイタ!まりえ!おはよっー!」


「康太よぉ…。俺昨日も飲んじまったぁ…。いい加減抑えねーとなぁ。」
心で思っていた言葉とは裏腹に、平然を保つかの様に会話を仕掛けた俺。

「しっかし!ケイタは相変わらず酒好きだよなぁ…。」

以外にも康太は軽快に返事を返してくる。


と、そこにまずカズサ登場。

「衝撃」の張本人が二人とも揃った。

「みーんな!おっはよぉ!二限の講義のレポートできたぁー?」

正直俺は耳を疑うと同時に、昨日の「衝撃」を全く感じさせない開き直りように驚いた。


「なぁー?そういえばよ!昨日のドラマ!ドラマどぉだったー?俺ちょっと用事あって見れなかったんだよなぁ…。」

康太も気転が効く会話を持ち掛ける。

「ちょっと用事」は、恐らく昨日の「衝撃」の事なのだろうか…?

カズサとの気まずさを隠したかったたのだろうか…?

「って言うかさぁー!あの女優、前より性格わるくなったよねぇー?あれ、役柄なのかなぁー?」

と、カズサも康太の会話に乗る。

カズサと康太の絶妙すぎる演技の裏事情を全て知っている俺とまりえ。



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ここでカズサとレミ、健三と康太の恋愛相関を整理してみる。


カズサは康太に告白したが振られた。

康太はカズサからの告白を振り、レミを好きな事をカズサにカミングアウトした。


健三はレミといつも一緒だが、好きという感情は未(いま)だ不明。

レミの感情は健三、康太どちらに向いているのかも未(いま)だ不明。
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そこにレミと健三が姿を現わす。

「よぉー!おはよーさん!レポート終わらなかったわぁー。ケイタできたかぁー?」

寄りによって、今日も2人揃っての登場…。

謙三もレミも、昨日の「衝撃の事実」は知らない模様だ。

すかさず康太に目をやる俺。

昨日の「衝撃」から想像すると、健三とレミに向ける康太の眼差しは羨ましそうに見えた。



しばらく、ドラマやレポートの会話が飛び交う現場。

「やべっ!2限はじまっぞぉ!行くべよ?ちっと、早めに行って、ケイタのレポート、パクらせてくんねー?」

と謙三。

「お前!俺のパクったら、俺も教授に疑われるだろー?」

「完全には、パクんねーから!いーべよぉー!さぁっ!いった、いったー!バッグでも、お持ちしますかぁー?」

謙三は、本当にお調子者だ。


6人はそれぞれの講義に散らばったが、あの場面そして気まずい空気感、何も無く過ぎ去って良かったと心の中で呟く俺だった。








ところが講義中。






康太からメールの着信。


(2限終わったら、昼飯前に時間あけられねーかぁ?談話室で待ってるからよ!)






談話室。

「わりぃー。遅くなったわぁ。康太、どしたぁー?」

「あっ…。うん…。」

なかなか口を割らない康太だったが、重々しい口が徐々に柔らかくなる。


タバコを吸いつつ、
「なぁ?ケイタ?昨日カズサとちょっとあってよぉ…。」


「カズサー?なんかしたのぉ?つーか、浮かねー顔だなぁ!?何があったんだよー?」



「衝撃の事実」を何も知らないふりで話を聞き出す俺。

「実はよぉ…。昨日なぁ…。カズサから告られてよ…。まぁそれはいいんだけど…。俺実は…。誰にも言ってないんだけどよ…。思っている人がいるから断ったんだわぁ…。」


「はぁっー!?まぢでぇ?!」

「お前っ!あんまりデケェ声出すなよっ!」

「わりぃ…。そぉだったんだ。あいつも、ほんとに恋多き女っていうか…。それで、康太の気になるやつって誰なのよ…?俺知ってる人?」



「あぁ……。ぅん。レミ。」


「レミーーー!!」

「だからっ!声デケェって!健三との関係は分かってんだけど……。なんか…自分に嘘つけねーし…。」


「あっ…わりぃ……。んで、どぉしたいの?」


正直、康太の前で初耳の如く相談役を演じるのは難しかった。


康太は大きくため息をつきながら、

「いや…。とりあえず正直に謙三と話すわ…。健三はレミの事どう思ってるのか分かんねーし…。それから、レミに告ろうと思ってる。」

「まぁ…。謙三はレミを好きかどうか今の時点では分かんねーもな。話せばわかってくれんじゃねぇかぁ?ってかよぉ!康太頑張れよ!何かあったら、相談乗るからよっ!」

「サンキューなっ!!なんか、すこーしだけど楽になったわぁ。んじゃ、またあとで。」


俺がカフェに戻ると、康太と俺以外は皆揃っていた。

「あっ!こっち、こっち!遅かったなぁ!?どこで油打ってたんだぁ?」

と、謙三。

「いや!わりぃわりぃ。ちょっと腹痛くてよ!」

「なげぇ便所だなぁ…。」


まりえは俺の顔をじっと見て、何か言いたげな様子だ。

「あっ!そーいえば、学生課にレポートの許可証出さないと!ケイタたち出したのぉー?昼休み中に済ませないと!」

と、何も知らない渦中(かちゅう)のレミ。

「俺らは、もぉ出したよ!早く出してきなよっ!」




謙三とレミ、カズサが学生課に席を立った時、まりえが小声で会話を持ちかけてきた。

「ねぇ?ケイタ。康太と話してきたでしょ?私、だいたいわかるんだからね。」


「いや…。今康太もカフェ来ると思うし、その話は後で言うから。」




4限が終わり、アパートに帰宅。

「ねぇー!ケイタ!私に、何か言うことあったでしょっ!?」

忘れていないと言わんばかりにまりえ。

「あぁ…。康太がねぇ。謙三と話して、レミに告白するってよ。その相談…。」

「そっかぁ…。何かグループ内でのトライアングルってきついね…。謙三がレミに対して好きっていう感情がないといいんだけど…。」




突然、時間を見計らったかのように、謙三から着信。

「お疲れっ!ケイタ!今日宅飲みでもしねぇ?」

「まーた!どぉせ俺のアパートだろ!?」

「よーく、お分かり。」

「ちっとまりえに聞いてみるから。ちょっと待って。」


まりえの顔を見ると、話の内容を聞いていたかの様に、小さく2回うなづいた。

「だいじょぶだってよっ!とりあえず7時頃なぁ。」

「わっーたぁ!レミも連れてくわぁー。」

電話を切ると、まりえが。

「まさか、ケイタ!謙三にカミングアウトするわけじゃないよね?」

「するわけないでしょ!それは、康太から直接の話でしょうよ!」





4人で飲みを開始したが、飲み始めてすぐ、康太からも着信があった。


「お疲れっ!昼間は悪かったなぁ…。ケイタ?ちょっと飲み付き合ってくんない?」


俺の心の中は、
(まーぢかぁ…。よりによって、今日かよぉ…。)だけでいっぱいだった。


「今謙三とまりえと宅飲みしてるよ。良かったら来なよっ!」

「まぢかぁ…。どぉすっかなぁ…。行くかっ!!」

俺は敢えてレミの名前は出さなかった。



康太は、レミの存在を想像していなかった様で、部屋に入った瞬間から気まずそうにしている。

「おっーすっ!これ、俺からの差し入れ!あれっ!レミも居たんだぁ?」

「お疲れっ!!康太おせーぞぉ!」

と、何気なく謙三は話しかける。



レミは明日、就職ガイダンスの為いち早く帰宅したが、康太のレミに対しての気持ちは、談話室で話をしていた時よりも熱が入っているような気もした。
その上、自信の様なニュアンスまで見え、話しかけるタイミングも以前より鋭く、優しさも存分に醸し出されていた。


この飲み会中に、いつカミングアウトしても可笑しくはない状況。

レミが早く帰ってくれた事で胸を撫で下ろした。



酔いも進んだ午後22時頃。







康太が静かに口を開いた。




テーブルの対角線上に座る康太と健三。




「なぁ…謙三。俺言わなくちゃならないことがあるんだわ…。」

緊張感が漂う室内。

「はぁーっ!?なんだよっ!かしこまって!」

「実は…。」

謙三は康太の真面目な態度に、笑いも織り交ぜ呆気に取られている。

「なーんだぁー!早く言えよ!(笑)」


数秒ぐらい沈黙。

俺のアパート内が、静まりかえる。


緊張感から解き放たれたいが為、すぐ様アパートから出て行きたかった。

「いや、実は俺!!レミのこと好きになっちまった。わりぃなぁ…。謙三とレミの関係知ってて、こんなこと言うのわりぃって思ったけど。何て言ったらいーか、わかんねーけどよぉ…。」

謙三も、しばらく黙り込む。

「まーぢでぇ!?いやぁ、康太!そぉだったのかぁ?そっか、そっか…。」


少し笑いつつも、焦りを隠せない表情の謙三。

すると健三はタバコに火を付けひと息つく。

「実はよぉ…。俺もレミの事好きなんだわぁ!いっそのことなぁ!勝負すっかぁ!?それで負けた方は、後腐れ無しってことで!それで決めよーぜ!どっちもダメになるかもしれねーし!」

依然として焦りを隠しながら、下手くそに笑う健三。

「それまぢで言ってんの!?なんかわりぃなぁ…。俺入り込む隙間あんのかなぁ…?」

と、康太。

「悪くねーよ!!!それは、運命のイタズラっていう言葉だっぺよ!つーか、俺に興味ねーかもしんねーし!」

と謙三。



俺は康太と謙三の会話が、なんとも切なく、大人の会話、いや男同士の会話にも聞こえた。


「おぅっ!お互い正々堂々の勝負ってやつだべや!がんばんべよっ!」

「そうだなっ!!」

康太と謙三は硬い握手を交わして、お互いを励まし合う。



まりえは、そんな男同士の約束と決意に安心したような顔で、

「よかったのかなぁ?でも、良かったんだよね……?2人共いいアプローチするんだよぉ!」

と笑った。


「なーんか…。ケイタとまりえに臭い会話聞かせっちまったなぁ。」

と、謙三。

「いやっ!正直焦ったしよー!喧嘩でも始まるかと思ったわっ!!まぁ !とりあえず、二人とも頑張ってっ!」

俺もようやく心から笑えた。


この街にも、金木犀の香りが届いた頃……。
その香りがアパートの窓を通り越し、男同士の約束と合間って更に美しく際立った。