STORY2 出会いと再会

STORY2

出会いと再開

大学生活も早、数ヶ月たった…。

あの日から、まりえちゃんとは逢えなかった。

講義が終われば、相棒を無理矢理拉致して、毎晩浴びるように酒を飲んだ。

そこまで飲む理由…。

一目惚れだった。

けど、あの日から逢えない日々が続く。

その反動で酒にばかり頼り、現実逃避したかったのだろう。

「お前飲み過ぎだって！今日何杯目だよぉ？」

「あっー？まだまだっ！！」

眉間にシワを寄せ相棒を睨みつける俺。

「俺そろそろ帰るぞぉ！レポートやらねーとだし。」

「勝手に帰ればいーべやっ！飲まねーとやってらんねーんだよぉ。だいたいまりえちゃんとは、もう逢えねーんだからよぉ。」

「まぁ…。大学辞めちゃったんだべよ！俺はあと帰るからよぉ！あんま飲みすぎんなよ！」

と、相棒は俺を何度心配してくれたことか…。

ただ、朝起きる事だけは強くなった。強くならざるを得なかったのだ。

どんなに飲んでも、八時には起きて、シャワーを浴び、髪をセットして…。

講義も全部出た。

ただ、まりえちゃんとは逢えなかった…。

同じ学科なのに、逢えなかった…。

もう本当に、退学でもしてしまったのだろうか…。

焦りをすっかり通り越して、幻だったのかと諦めさえ覚えた。

それでも、また逢えるかもしれないという、少しばかりの期待感を抱いて大学生活を送っていたっけ…。

けど、毎日が憂鬱で、持病の五月病も更にスケールアップしていた。

喫煙所。

どんよりした曇り空に、タバコの煙で輪っかを作ってボッーとする。

「ケイタくん！こないだはお世話さま」

不意打ちをくらって、タバコが鼻の頭に当たって火傷した。

「あっちぃ！」

タバコの火の行方を確認して、話が聞こえる方向に顔を向けた。

「あれぇ！こないだの！」

この前宅飲みした子達だった。

レミとカズサ。

ショートカットの子がレミ。カズサはロングの黒髪。髪の長さは対照的で、覚えやすかった。

レミとカズサとは大学卒業するまで一緒にいた仲間。

本当に楽な友達付き合いだったかもしれない。

友達というよりも、仲間と言ったほうがいいと思う。
いや、仲間以上だ。

こんな男女関係では、下ネタ全開、女の子の裏情報まで知れてしまう。大学の女の子はもっと清楚で上品なのかと思ってた。

いつからか、レミとカズサ、相棒と俺の四人、カフェテリアに集まってはどこにでもある学生の会話を繰り広げた。

レポートの材料を分け合ったり、テストがあると過去問を集めあったり。

カフェ一階、喫煙所。

「ねぇ、ケイタ？」とカズサ。

「んー？」
(あっ！こいついつの間に呼び捨てだ)

カズサはタバコを吸う。

見かけによらず、結構キツイタバコを吸う。

「なんか、初めて合コンやったときと雰囲気違くなーい？あのときは酒入ってたから？」とカズサ。

「はぁ？何が？何も変んねーよ！」

タバコを無駄にもう一本。別に吸いたいわけではなかったが、流れで火をつけた。

男の感情を女の子は敏感に掴む時がある。

「だってさぁ！皆と一緒に居ても、あんまり喋らないし、最近元気もないじゃん。」

「いやぁ、別にそーいうわけじゃないよ。」

完全に誤魔化した。
女の子の察知能力にはお手上げだ。

「あっ！そーだぁ！今日飲みいこーよ」

「あっ！んじゃ、あいつらも！」

カズサは、俺の腕をひっぱり、何か阻止するかのよう。

「いや、二人で！何か相談したいことあるんでしょ？フラワーで六時半ね。」

随分一方的に話はきまり、少し長いタバコを無理矢理もみ消して、カズサはすんなりと皆の輪に入っていった。

5限が終わり、陽が傾きかけた五時。

「あー、カズサなぁ。約束したっけ。少しめんどくせぇなぁ。まぁ…悪い子じゃなさそうだし、行ってみっかぁ。」

と、心の中で呟く。

夕日が山際に近づくごとに、大きくかつ真っ赤に染まっていく。

少し長いタバコをもみ消し、まりえちゃんに、初めて声をかけてもらった場所を、わざと経由して駐車場に向かった。

「俺は相変わらずバカだ…。こんなに時間にいるわけねーよなぁ…。」

独り言が多くなっていたっけ…。

大学からまっすぐ車を走らせ、少し早めにフラワーに着いた。

「いらっしゃいませ！」

マスターだった。

マスターの優しい声には癒される。29歳、脱OLをし、女で一つフラワーをOpenさせた逸材。

「あらぁ。どーしたの？ケイタくん。1人？」

無言でマスターを見つめる。

「何か顔疲れてるよ。顔に書いてあるも。悩んでますって」

ウィスキーの氷を転がしながらマスター。

「いやぁ。そんなことねーっすよ。今から一人来ます。とりあえず生で！」

適当な笑みを浮かべて、話を濁した。

五分遅れでカズサ到着。

「カズサ元気にはいりまーす‼︎」

のれんをくぐると同時に右腕をまっすぐ上げ、堂々と入店してくるカズサ。

カズサはいつもこうだ。陽気というか、ネジが一本抜けてるというか。
お客さんがカズサに一点集中。

「マスター！生！泡なしで」とカズサ。

「 お前はずかしくねーのかよ！？」

と、突っ込みたかった。

本人の当たり前かの様な顔に唖然とした。

これから、このカズサという女性と数時間を共にする。
入れる穴があれば隠れたかった。

「カズサちゃんはいつも元気だね？ケイタくんにも分けてあげたら」
と、マスター。

やっぱりマスターにしてもカズサにしても、女性の察知能力にはお手上げだ。

「ほらっ！やっぱりぃ！ケイタ絶対何かあるじゃん？話してみぃ〜？」

とカズサ。

「えっ⁈別になんでもねーよ！マスター！生おかわりっ！」

三時間程飲んだか…。

特に何を相談するわけでもなく誤魔化し続けた三時間。

勿論、二人とも泥酔。

カズサは酔っ払うと口が悪くなる。

「だいたい！男のくせにメソメソしてんなよ！元気なかったら、皆心配すんだろーよ！」

綺麗な容姿なのに、ろれつが回らない分、カズサはオッさんに見える。

お会計を出した時にはカズサはカウンターに突っ伏してた。

「ほらっ！カズサかえっぞぉ」

「んー…。いーやーだぁ…。まだ飲む！」

代行は週末の助けもあってか、二、三時間待ち。
仕方なく、車は明日取りにくることにして、歩いて帰ることにした。

カズサを抱き上げ、のれんをくぐる。小さい体だから、容易かった。足元は千鳥足で、仕方なくおんぶした。
「¥&);(:)&@¥);…。」
俺の背中で、ブツブツ言うカズサ。何を話してるのかは分からなかった。ただ、少し小さい胸が背中に当たって程よく緊張した。

遠くで、救急車のサイレンと、犬の遠吠えが聞こえた。

「なぁ！カズサ、お前んちどっちだっけ？」

酔っ払いながら、背中であっち、こっちと案内するカズサ。気づくと俺のアパート方面。

「あら？お前んちもこっちなの？」

「違うよーだ。」

「カズサ！お前酔っ払いすぎだって！」

二人の横を救急車が通り過ぎた。

「今日は帰りたくないんだぁ…」

「はぁっ？！」

俺はドキッとした。しかも、さっきまでの原住民のような言葉はどこにいってしまったのか。

俺は仕方なく、アパートの鍵を開けて、カズサをベッドまで運び、毛布をかけてやる。

「 あーぁ、タバコ買ってくりゃよかった。残り一本かぁ…。」

カズサを起こさない様に、近所の自販機でタバコを買ってきた。

フラワーからの帰り道で、夜風にあたったせいか、少し酒がさめてしまった。

グラスに氷とウィスキーを入れ、少しずつ舐める様に飲んだ。

室内は、スポットライト一つ。

タバコの煙が光に反射し、幻想的な空間が広がる。

何分たったか。
ソファーベッドに横になると。

「ふつーさぁ！隣に寝ない？」

「いや、寝ないだろっ！」
と、突っ込みたかった。

寝言かとも思った。

いや、寝言であって欲しかった。

寝た振りを続けた俺だったが…。

カズサは、細い手で俺の手を掴みベッドに招き入れた。

柔らかな日差しを受けて目を覚ます。頭は相変わらず痛い。
ぼっ〜として、昨夜の事を思い出した。

間違ってしまった…。

「俺…なにしてんだよ…。」

隣にカズサはいない。

ふと、テーブルに目をやると置き手紙。

(おはよー。昨日はごめんね。全部忘れて。今日からふつーね。学校で会っても変にしないでね。では、カズサいっきまーす)

その日は午前中の講義は休んだ。

なぜか、一晩を同じベッドで一緒に過ごすと、好きという感情を覚える。

好きという感情もさることながら、どうしても気になる…。

無理矢理忘れようとすると、尚更思い出す。

だいたいそんなものなのだろうか…。

何気なく、カフェテリアに行くと相棒とレミ、カズサが中間テストの勉強をしてた。

相棒が

「おっ！重役出勤！風邪でも引いたかぁ」

「うっせーし！」

完全にふてくされた顔の俺。気持ちのやりどころがなかったのだろう…。

「なんだ、なんだ、人が出席とってやったのに御礼もなしかぁ！」

と相棒。

カズサに目をやると、

「ちゃんと出席しないとレポートかさないからね」

と笑う。

「すいません…。」と俺。

席に着いて何気ない会話。カズサが気になってしまう。

いてもたっても居られず、席について数分でタバコに立つ俺。

カズサと自販機の前で二人になった。
カズサが午後ティーを買って先に歩く。

那須は、どんな季節でも風が強い。

長い廊下に強風が入り込んで来た。

一瞬時が止まった。

カフェ廊下の玄関口におっきな荷物を抱えたまりえちゃん。

まりえちゃん、カズサ、俺の立ち位置で時が静止した。

おっきく手を振りながら、満面の笑みで駆け寄ってくるまりえちゃん。

何か恋人同士の久しぶりの再会のようだった。

まさかこの状況でまりえちゃんと再開するなんて…。

サッカーで言ったら、マイアミの奇跡で、日本がブラジルに勝ってしまうぐらいの奇跡だったから。

嬉しさを隠しきれなかった。

会えなかった分。

もう会えないと思った分。

「おーい！ケイタくん！久しぶりだね！やっと見つけた！探したよ！午前中の講義にも居なかったしさぁ」
とまりえちゃん。

何を話したらいいのかわからなかった。
カズサは一瞬俺に目をやり、素っ気なく、テーブルに戻った。

「あれ？最近見ないと思ったら。どこ行ってたの？」

と俺。

「私、カンボジアに二回、短期留学しながらボランティアしてたの。一回目は、レジュメのお礼したとき。あのときも、結構探したんだよぉ！それで、今回が二回目。将来の夢なんだぁ！貧しい国で、皆のお世話すること。」

そんなまりえちゃんの夢、聞いてたそぶりだけで、再開できた嬉しさから、何か俺の中の溜まってたものが一気に決壊した。

また、まりえちゃんとの季節が始まった。