STORY3 新しい仲間と那須デート
STORY3
新しい仲間と那須デート
カフェ一階・廊下
「私、入学してすぐカンボジア行っちゃったし、あんまり友達いないから紹介してね?」
「俺もそんなに友達いないよぉ…。あそこに座ってる奴らぐらいかな。」
俺が相棒を含め、三人が座っているテーブルの方向を指差す。
相棒が、ニタニタしながら手を振っている。
相棒に向かって、余計な事をするなと言わんばかりに、手と顔でジェスチャーする俺。
それを見ながら微笑むまりえちゃん。
「みんないい人そうだね!あれっ!?次講義一緒だよねぇ?また逢えるね!」
と、まりえちゃん。
「あっ!うんっ!良かったら一緒の席取っておこうか?」
「えっ⁈ほんとにっ⁈」
「ほらっ!俺ら四人だから、次の講義室五人掛けのテーブルだし!」
「んー…。みんなに迷惑じゃないかな?」
「だいじょーぶだって!」
と、まりえちゃんの携帯が鳴る。
「そうかなぁ…。あっ!携帯!ごめんねぇ!また後でねぇ!」
「あっ!ぅんっ!」
それほど長い会話ではなかったが、沢山話せたような気がした。
二人の会話を引き裂く、携帯の着信音を少し恨んだ。
まりえちゃんと別れ、俺はまっすぐ喫煙所に向かった。
奇跡の再会に酔いしれる為に。
カフェのテーブルに戻ると、相棒が依然としてニタニタ笑いながら、俺をいじりたそうな目で見ている。
「よかったっぺよ!まりえちゃん戻ってきて。またまた恋のスタートかぁ!『四六時中も好きって言ってぇ〜🎶』」
と、俺をからかう相棒。
相棒を目で殺す様に、無言で椅子に座り、普段一切目を通さない、教科書に目をやる俺。
正面にカズサが座っているのは、分かっていたが、目をやれなかった。
「ケイタ?ねぇ?ケイタ?」
カズサに何度か呼ばれて気づいた。
「んあ?」
「今度の土曜日、四人で宇都宮のクラブいこーよ!」
「んあ?俺はいいやぁ!やる事いっぱいあってよぉ…。」
パラパラと教科書を読んだふりをする俺。
依然として、相棒はニタニタと笑っている。
「いいっぺよ!三人で行ってくっぺよ!カズサ!」
と、相棒。
あまりにも適当な返事だった。確かにクラブは好きだったし、四人でもよく通っていた。
けど、
「頼む今は俺に話しかけないでくれ!余韻に浸りたいんだ!」
徐々に、如何なるものも、近づけさせない表情になっていたと思う。
「次の講義始まっちゃうよぉ!」
レミの機転の効く言葉。
「なーんか変なの!ケイタ!」
カズサは不機嫌そうだ。
結局、次の講義に姿を現さなかったまりえちゃん。
相棒と喫煙所。
「まりえちゃん来なかったなぁ…。ざんねーん!!!」
と、からかい半分で相棒。
「おまっ!お前うるせーんだよっ!」
軽く相棒の頭をコズく。
「別にいいべよ!退学してなかったんだから!」
「まぁ…。それはそうだけど…。」
深いため息を吐く俺。
「あっ⁈あれっ!まりえちゃんじゃねーの?」
と、相棒。
「えっ⁈どこっ⁈」
必死に周りを見渡す俺。
「自販機の横!あれぇ!?男と話してねぇ?しかも、仲良さそぉっ!」
「………。」
俺から一瞬にして言葉が無くなる。
あの時の、まりえちゃんの表情は、俺と話している時より、本当に楽しそうだった。
その男はまりえちゃんに、本一冊入る位の紙袋を渡していた。代わりに、まりえちゃんも手のひらサイズの箱を渡していた。
その光景が、全てスローモーションに見えた。
「おいっ!ケイタ!?おいっ!」
「俺帰るわっ!んぢゃ…。」
俺は、言葉を失くし、喫煙所から肩を落として、駐車場に向かった。
車に乗り込んだが、エンジンをかけられず、全ての事柄が負の連鎖に走ってしまう。
会えない間に、彼氏でもできたのか…。
あの自販機男は彼氏なのか…。
さっきの電話の相手が、あの自販機男だったのか…。
その夜、久しぶりに一人で飲みに出た。
フラワー。
「マスター!ウィスキーのダブル!」
一点を見つめ、黙々と飲みを進める俺。
何故かいくら飲んでも酔えなかった。
「ねぇケイタくん!もしかして、恋してるでしょ?」
とマスター。
「はっ…⁈いや…。恋なんて…。」
焦りを隠せなかった俺。
お客さんが早い時間にひけた、夜22時頃。
マスターがタバコを吸いながら、角瓶のロックを持ってカウンターに座る。
「今日はもうお店終わり。看板消したから。悩みあるんなら吐いちゃいなぁ!きっと楽になるよ!」
ようやく重い口が開いた。
「この前、カズサとあのままアパート行って、やることやって、少し気になって、好きになりかけたのよ…。
ただ、まりえちゃんって子が居て、その子短期留学で、カンボジア行ってたから、ずっと会えなくて、もぅ会えないと思ってたから…。
でも、今日逢えたんだぁ…。ほんと奇跡でも起きたんじゃないかって!」
文章にもならない、理解が難しい言葉をマスターは、ウンウンと聞いてくれた。
「それでぇ…?」
「それが…。今日喫煙所で相棒とタバコふかしてたら…。まりえちゃんに男の影が見えちゃってよ…。こんくらいの、紙袋渡されてたし…。まりえちゃんも、なんかの箱渡してたのよ。それに、すっげぇ楽しそうだった…。」
「まぁ…その男の子が、まりえちゃんの意中の人かは分からないじゃん!それに、自分がほんとに好きな子と、この先歩めばいいでしょ。まだ若いんだから、カズサちゃんとか、まりえちゃんだけが、運命の人ではないかもよ。」
一呼吸置いてマスター。
「ゆっくり考えてみな…。男と女なんていつどこでどうなるかなんて、あたしだってわかんないんだから!自分にもっと正直になってみたら?あとは、その男の子の事とか、余計な事は考えないで…。」
何かすごくホッとした。
吸いかけのタバコがフィルターギリギリまで燃え尽き、灰皿の中へ落ちていった。
朝8時半。
少し早めに大学に到着した。
駐車場近くの喫煙所で、珈琲とタバコ。
背後から
「おーはよっ」
また不意打ちをくらった。火傷はしなかったけど、カズサ以外の存在を願った。
まりえちゃんだ。
タバコをすぐ様揉み消して、煙をはらった。
「ケイタくん、早いねぇ」
「おー!おはよっ!」
冷静すぎるくらいの言葉で挨拶を返す俺。
「一緒にいこ?一限、心理学でしょ。前にケイタ君見かけたから。一緒なんだって思ってさぁ。後ろの席で寝てたでしょ?」
「あっ…。ばれちゃっていたんだ。てか、まりえちゃんも早いね?朝得意なの?」
「ぅーうん…。実は不得意なの。でも出席しないと、自分の為にならないし…。」
「確かにそだね!俺も朝は苦手だなぁ。でも、真面目に出るようにしてる!」
ほんの数週間前まで、代出を友達に頼み、自ら出席を取っては講義開始から10分もしないうちに、席を立っていた人間の言葉とは思えない。
そんな適当な言葉のやりとり。
けど、このドキドキ感は今までに無いもので、大切にしたかった。
昨日の、自販機男の事は気になってはいたが最後まで聞かなかった。というより、聞けなかったという方が正しいだろう。
心理学はレミ、カズサ、相棒も違う時限にとっていた。
あの時初めて、まりえちゃんと二人で講義を受けたっけ。
ところが、講義どころでない。
一応、ノートはとったが憧れのまりえちゃんと隣で、講義を受けてるのだから。
「勉強してますよっ!」
変なカッコつけアピールで、ノートをとったっけ。
勿論、90分が早く感じた。いつもは、あれだけ長く感じるのに。
二限は相棒、カズサ、レミと四人で社会福祉学の全体講義。
教室内をぐるっと見渡したが、まりえちゃんはいなかった。
五人掛けの長テーブルに俺はカズサの横に座った。
バックを真ん中に置き、一つ席をあけて。
「1限ぶりだね?」
後ろからの声。
振り返ると、まりえちゃんだった。
「ここいい?他空いてないし、皆知らない人ばっかりだし。みんな、ごめんね。」
俺はカズサとの距離を詰めてまりえちゃんを横に座らせた。
何とも神様はイタズラ好きだ。右にカズサ、左にまりえちゃん。
一晩を一緒に過ごし、気になった女の子と、生涯で初めて、一目惚れした女の子。俺に対しての、神様からの罰のようにも思えた。
「いい加減に、どちらかに決めなさい!」
天からは、そう聞こえた。
普段は、相棒とヒソヒソとどうでもいい話で笑い転げている俺だったが…。
ノートを取っては、シャーペンを鼻と上唇の間に挟んでみたり、眠くなりかけると、頬っぺたをつまんでみたり…。
平然を保とうと本気だった。
講義が終わると、まりえちゃんから、カズサとレミに話しかけた。
「席譲ってくれてありがとう。私…実は友達少ないんだ…。今日からご飯とかカフェで一緒に居てもいい?この前、みんな本当に楽しそうだったから。」
レミが開口一番。
「是非!是非!あたし、レミ!よろしくねぇ!」
カズサは、少し戸惑うかのように、
「こちらこそ…。カズサだよ…。」と、ぎこちなく笑った。
五人のキャンパスライフがはじまった。
6月初めの、ジトジトした空気、俺はすごく嫌いだ。せっかく、持病が引込みかけたのに、とにかく更に憂鬱だ。
この頃から、俺の交際関係が少しずつ変わっていった。
まりえちゃんに、少しでも嫌われたくない気持ちもあった上に、依然、あの自販機男の事ばかり、頭に引っかかっていてた。
カフェテリアに顔を出すことも少しずつ少なくなっていった。
負の連鎖は続く…。
アパートに帰れば、R&Bのレコードを回して、気がおかしくなる位音楽だけを聞いた。
しかも、甘々の洋楽だけ。
テレビをつければ、恋愛ドラマや、推理ドラマ、刑事番組ばかり。
そのたぐいのドラマを見ると、だいたいの結末が見えてしまってつまらなかった。
「 あー。こーいう展開ねぇ」
「よくドラマにあるパターンじゃん!」
アパートには独り言が増えていく。
酒のツマミにでもと、TSUTAYAに行き、お笑いのDVDを借りたが、見る気にならない。
DVDは見ないまま返した。
相棒との飲みが少なくなり、合コンにも参加しなくなった。
交際費が少なくなった分、金の消費は減った。けど、まりえちゃんを思う気持ちは、反比例して大きくなり続ける。
更に、負の連鎖は続く…。
少しの興味から始めたパチンコ。
出入りする回数が多くなっていった。
ただ、考え事をするためだけに。
パチンコ屋の、あの騒々しい音。
玉と玉がぶつかり合う音。
ボッーとするには最適な空間だった。
10万円の払戻しがあっても、あまり嬉しくなかった。逆に、この大金の使い道に戸惑った。
ギャンブルというものは、金欲が全く無い時に限って、無駄に沢山出るときがあるものだ。
パチンコ屋で掴みとった札束をふところに、マスターのお店、知り合いのスナック。その繰り返し。
完全に、恋をしている自分に酔いしれていたのだ。
マスターの店、スナックで、話を聞いてもらい安堵感に浸る毎日。
6月も中盤。
晴れたり雨だったり。
雨の日が多い分、晴れた日には、すごく出かけたくなった。
景色も空気も良い那須は、ドライブに最適だ。
二人で来れたらって何度も思った。
那須の頂上付近には、「恋人の聖地」というモニュメントが建っている。
頂上までの上り坂を、わざわざ貴重なガソリン代をかけて上り切り、絶景を一人仰ぎ見る。
隣には、初々しいカップル。
本当に羨ましかったっけ…。
相棒からの着信。
「お前どこにいんだ?」
「那須の山の上!」
「はぁっ⁈お前いつの間にロマンチストになったんだよ!」
「なってねーよ!気晴らしにドライブだって!」
「ってか!お前大学に来いよー!カフェにも顔出せよなぁ!お前の出席取りばっかりやってらんねーよ!」
「わりぃ、わりぃ!今度埋め合わせすっからよ!」
「とりあえず出かけんなら、俺も連れてけっ!んぢゃな!」
「おぅっ!んぢゃ!」
相棒からの着信後、絶景を写メに納め、すかさずまりえちゃんに送った。
すぐ様、まりえちゃんからの返信。
「すごーい!ここはどこぉ?今度連れてってねぇ!」
このメール一つで、心の中でこんがらがっていた糸が、まっすぐに解けて、少しずつ前向きになれたっけ…。
西の方角には、夕焼け空が綺麗に広がる。
那須の頂上に、一人で三時間程滞在した。
徐々に沈んでいく夕日は、俺の顔を赤く染めていく。
「自分で距離を遠ざけてどうする…。俺は俺だ!」
心の中で何度も呟いた。
その年は、梅雨が早めに終わりかけていた。
カフェテリア一階。
「おーはよっ!ねぇ!昨日のドラマ見た?最終回!すっごく良かったね?」
「あの2人が最後にくっつくなんて思ってもなかった。」
と、レミとカズサがカフェで盛り上がっていた。
いつの間にか、まりえちゃんも楽しそうに、皆の輪に入っていた。
「おっ!おはよ!なーんか珍しいじゃん!カフェに顔出すなんて!」
と、相棒。
「おぅっ!タバコも吸いたかったし!たまには顔出そうと思ってよ!」
久しぶりに皆との絡み、俺のドラマ嫌いもあって、皆に合わせるのでいっぱいだった。
すると、まりえちゃんが突然。
「今度さぁ、那須高原にドライブいこーよ」
まりえちゃんからのデートのお誘いだ。
「あのねぇ!私ネットで検索してみたんだけど、みーんなで、ドライブついでに、ハイランドパークいこー?学割も使えるみたいだし!」
不意打ちをくらった。火傷はしなかったけど。
最初俺を見て話していたまりえちゃん。
てっきり、初デートのお誘いと思った俺が恥ずかしかった。
完全に心が火傷した。
俺はジェットコースターに乗れない。絶叫マシンはだいたい乗れなかった。
内臓がフワッとする気持ちがなかなか好きになれない。
それでもまりえちゃんと一緒に遊びに行けるのだ。
邪魔者の三人が居たとしても、不得意な絶叫マシンがあっても。
そう自分に言い聞かせたっけ…。
6月下旬那須ハイランドパーク。
相棒と俺で、8人乗りのハイエースを借りてきた。
カズサとレミ、まりえちゃんは朝早く待ち合わせして、弁当を作ってきた。
この頃になると女の子同士でも友情が芽生えていた。
午前9時待ち合わせ。
相棒と俺は、前日飲みすぎて案の定寝坊した。
「おそいー!」
レミが待ち合わせ場所で怒ってる。
「いやぁ!ハイエース借りるのに時間かかった。ごめんってばぁ!」
と相棒は、レンタカー屋のせいにしてる。
快晴だった。
まだ梅雨なのに快晴だった。
ほんとに空気が綺麗で、まりえちゃんと二人で来れたらって何度も思った。
「ねぇ!次あれのろ〜よ!」
はしゃぐカズサ。
「俺はいいよ!子供の頃から苦手なんだよ!」
と俺。
「えぇ!いいじゃん!子供の頃だけかもじゃん!」
と、カズサ。
不得意なジェットコースターに、無理矢理乗せられた。
レミと相棒が一緒に乗り、さて、どこに乗ろうかと戸惑う俺。
カズサが
「まりえちゃんと乗りなよ!」って勧めた。
「えっ⁈カズサ一人になっちゃうじゃん!だいじょーぶ?」
と、まりえちゃん。
「私はだいじょーぶだって!早く乗っちゃえ!!」
と、カズサ。
五人組というか、奇数のグループは、これがあるから厄介だ。
あの急斜面をゆっくり登る音、そしてその先は崖。まりえちゃんと隣でも、ジェットコースターだけは好きになれなかった。
昼飯。
カズサが自慢するように、弁当を披露する。
「これがまりえで、これがレミ、そしてこれがカズサ!」
「ふ〜ん…。うまそぉじゃん!てかっ!ビール飲みてぇなぁ!」
と、あまり興味が無さそうな相棒。
数秒後、カズサに頭をたたかれていた相棒。
昼飯後、五人はお化け屋敷に入った。
相棒とレミが最初に入った。
俺はカズサとまりえちゃん。
左にまりえちゃん、右後ろにカズサ。
お化け屋敷の中盤になると、恐怖が増す。
手術室のシチュエーションに入ると、カズサは怖がってる。ビックリする度に俺の手を握ってくる。
しかも気まずそうに。
お化け屋敷も最大限に恐怖が増す頃、先を行くまりえちゃんが立ち止まる。
すると、那須ハイランドパーク特有の生身の人間が驚かすというシチュエーション。
カズサは発狂し、数十メートル先の出口に向かって真っしぐら。
まりえちゃんはあまりにも恐怖でしゃがみ込んでしまった。
まりえちゃんに手を差し伸べて
「いこー?」
と声をかける俺。
「ありがと。でも怖くて立てない!」
俺の手をしっかり掴み、ユックリと立ち上がるまりえちゃん。
なんとも不思議だ。
お化け屋敷の中で、ずっと一緒に居たいって思えるのは。
お化けの化粧をしたスタッフが、微動だにしない二人を見て逆に躊躇する。
初めてまりえちゃんの手を握った。
「大丈夫?そろそろ出よっかぁ?」
「ケイタくん?今度は、2人だけで来たいね!」
突然過ぎる言葉。
予想もしていなかった言葉。
二人はお化け屋敷から出る直前まで手をつないでいた。
本当に嬉しくて、不得意なジェットコースターにもまりえちゃんとだったら100回でも乗れる気がした。