携帯小説『金木犀』

恋愛ものの小説(フィクション・ノンフィクション)や、時事コラムなどを思いついた時に書いてます!お時間あれば時間潰しになればと思っております!

STORY4 急展開と勘違い、そして崩壊

STORY4 急展開と勘違い、そして崩壊






正真正銘。

二人だけの空間で…。

まりえちゃんから、突然デートのお誘い。


今度は相棒も、カズサもレミもいない。



二人は、何もなかったかの様にお化け屋敷から出た。


「おぃっ!カズサ!おいてくなよ!」



「だって!めっちゃ焦ったんだもっ!」

「所詮おばけ屋敷ごときでそんな焦っかよぉ!」

「カズサ出口でこけてたもなぁ!」

「うるさいしっ!」


相棒は、笑い転げている。




ハイランドパークに夕焼けが出る頃、五人は観覧車に乗ろうとする。

すると、相棒とレミの足がピタっと止まる。

「なんだお前ら!観覧車ダメなの?」

「いや…俺実は高所恐怖症なんだぁ…。3人で乗ってくればいいべよ!」

「右に同じく…。3人で乗ってきなよ!」
と、相棒とレミ。


「私も遠慮しとこーかなぁ…。昔からだめなんだよね…。高いとこ。」

と、まさかのカズサも離脱。

まりえちゃんと俺は二人同じタイミングで顔を合わせる。

「せっかくだし、乗ってこよっかぁ?」

ドキドキ感を隠しつつ、すっと素直な言葉が出た。

「そだねっ!」




またもや、まりえちゃんと二人だけの空間。


あの時、カズサ達は二人の空間を敢えて作ってくれたのだろうか…。



那須岳の最高峰、しかも観覧車の一番てっぺんから見る夕陽。

夕陽が二人より、低い位置に見える。

本当に綺麗で、大きくて、視覚内の半分以上を夕陽が埋めるんじゃないか…。

そう思ったっけ。


「ねぇ!あの辺がアパートあるところかなぁ?」

市街地を指差すまりえちゃん。


「もぉ少し右くらいじゃない?ほらっ!街の光集中してるところ!」

「ってことは、大学はあっちの方かな?」

「大学の方は田舎だから、光少ないし暗くてちょっとわかんないね。」


「あっ!そぉだ!前に送ってくれた写真の場所って、ここより高いところなの?」

俺は、すかさず背後の那須岳を指差して。

「あの辺かなぁ。ここよりもっと高いよ!夕陽も綺麗だったなぁ…。」


「ねぇ!今度絶対連れてってよね!ほんと楽しみにしてるんだ!」


「星が綺麗な日に行きたいねっ!」




二人が動く度に、観覧車が右へ左へと大きく揺れる。


恋人関係になる前の、恋の駆け引き。

押したり、引いたり。

まるでこの観覧車の様に左に、右に。


そして、ドキドキ感。



恋をした事がある者なら、必ず体験する一コマ。



そっと隣に座り、手を握る様なロマンシズムなんて持ち合わせているわけがない俺。


恋なんて、所詮下心、俺は恋愛下手と思っていた。

恋人が成立してから、愛を育む事の方が困難な事だろうと思う。

価値観の違いから喧嘩をして、お互いを理解し、認め合って…。

そこで認め合う事ができなければ、恋人は即解散。

二股をかけていたとか、恋人の乗り換えは、また別としてだが…。

今まで費やしてきた時間とか相手に対しての感情は何だったのだろうと、自分を惨めに思う。

だが、そこで解散しなかった者同士の愛は、固く結晶化し、最後に「永遠の愛」を薬指にはめる。

そして、幸せに満ちた二人は真心と言う名の「愛」を証明していくのだろう。

アーティストや歌手が書き下ろす歌詞の様に、「君に出逢えたのは運命」だとか、「君は運命の人」だとか…。

確かに「愛」という文字と、「運命」という文字は、結びつけやすい言葉だと理解している。

あまり、運命という言葉を使う事に慣れてはいない俺だが、この過程が理想的な考え方なのだろうと思う。





時を同じくして。

この五人のグループの中に、もう一組、右へ左へと感情が揺れ動く男と女がいた。








レミと相棒だ。




いつの日からか、レミと相棒は友達以上の関係になっていた様だ。


相棒はレミを妹のように可愛がり、レミも相棒を兄のように慕っていた。
何をするにも二人は一緒だったような気がする。

大学に行くのも一緒の車、カフェテリアでも一緒の席。


恋人同士の様な付き合いに見える時もあったっけ。

いや…「友達以上、恋人未満」だったのか…。


相棒とレミの不思議な関係に、首をかしげる事も多かったが、相棒にレミとの関係を、敢えて聞こうとも思わなかった。

いや…。まりえちゃんの事で頭が一杯な故、聞けなかったという方が正しいか…。



ハイランドパークからの帰り道、俺が運転手。

相棒は後部座席で爆睡。

勿論レミもカズサも。

まりえちゃんも、眠気に襲われていたけど、俺が一人運転しているからって起きててくれた。


那須高原、一軒茶屋のコンビニに入り、タバコを買った。
禁煙車だったから、外で缶コーヒーを飲みつつ、タバコを吸って車に戻った。

運転席のドアを開けると、驚きと同時に足を滑らす俺。


膝を思い切りぶつけた。


「いってぇっ!!!あれっ⁈前に来たんだ!」


「ゴメン、ビックリしたでしょ?前に来ちゃった。後ろ皆寝てるから、暇になっちゃってさぁ…。」

と、少し長い髪を肩の後ろに回しながらまりえちゃん。


正直嬉しくて、一発で覚醒した。

「大丈夫!大丈夫!俺も隣に居てもらったほうが眠気飛ぶから」


「そっか。良かった。もし、隣に来ないでとか言われたら、どぉしようかと思っちゃったよぉ…ほら、一人で運転したい人もいるじゃん?」


また二人だけの空間が作り出される。




50分くらいだろうか、二人のひと時。


高校の時の思い出とか、バカやっていた俺と相棒の出会いを話題に出して、後ろの三人が起きないように笑った。

好きな人ととの、静かなひと時。後ろの三人を起こさないようにヒソヒソ話。


まさしく俺の中では、今までにない程の大恋愛だったっけ…。



一発逆転満塁ホームランが放たれた那須旅行も終わりを告げ、皆をアパートまで送り、俺も帰路に着いた。


リビングでタバコを吸いながら、TVを付けた。

恋愛もののドラマで、第五話を放送していた。


第一話を見逃すと諦めてしまい、途中から見てもあまり面白みを感じない。


仕方なくTVを消した。

30分ぐらいだろうか、ソファに横になった。



何か考え事をするかのように。




こういう場合俺は、事を小さく考えすぎて、考えがマイナスばかりに走り、結局心境がボトムまで落ちる。

何を考えてもネガティヴ一直線な青年へと化する。

顔も性格も、行動も、言動も何もかも…。


そのモヤモヤを蚊やハエを叩き落とすように消し去り、思い切り立ち上がった。

カウンターテーブルに飾ってあった、芋焼酎をグラスに注ぎ、丸い氷を少し転がし一気に飲んだ。

胃が熱くなった。





最高にスッキリした気分だったっけ。




ピーンポーン!!!



玄関ベルがなる。









どうせ、相棒だろうと、
不機嫌そうに玄関の鍵を開けた。





すると…。




そこにはカズサが立ってた。



どうしてこの時間。





「あがっせぇ」

と俺。

「おっじゃまぁ!」

カズサは左手におっきなコンビニの袋を持っていた。ソファに座るなり、缶ビールをテーブルに6本並べ、焼酎のボトルをどさっと置いた。

「これさぁ、氷、冷凍庫に入れといて」

とカズサ。


「んでさぁ!前から言おうと思っていたんだけど、スリッパくらい用意しといてよね!」


(オイオイ、今から飲みかよ。)


「いちいちうっせぇからっ!今度はスリッパ持参できっせぇ!」

「はぃ、はぃ…。」

正直、疲れていた。

その疲れを敢えて伴わせて、今日の余韻に浸りたかった…。

「早く飲みぃ!てかっ!グラス!」

「あー。わりぃ、わりぃ。ちっと、待ってなぁ」


キッチンへ向かいつつ、カズサの突然の訪問に嫌な企みを感じた。


「はいよっ!グラス!」

「サンキューっ!」


俺は仕方なく、地べたにあぐらをかいて缶ビールを開ける。

プシュー!

「おいっ!カズサ!お前ビール振ったべよ!めっちゃ泡たってるしよ!」


「まーた!そーやってケイタは文句ばっかりっ!金請求するかんね!」

「あっ!わりぃわりぃ!俺さっき芋飲んでたんだよなぁ…。」


「んじゃぁ、このビールは返してもらいますね!」

「いやいやっ!飲みますって!」

取り上げられそうになったビールを、慌ててフトコロに戻す俺。



TVもオーディオもつけていなかったから、アパート内がすごく静かで、缶ビールを開ける音が、乾いた音だった。

(この流れって、前にあったような気がする。)



なぜ俺のアパートに、しかもこんな時間にアポなしで来たのか、俺は聞かなかった。

カズサもダブルデートの件には全く触れず、しばらく飲みを進めた。


「あれさぁ!レミたち、最近いい感じだよね?」

カズサは、ビールを飲み飲み、乾き物を貪ってる。


「まぁなぁ!」

「ねぇ?ねぇ?二人の関係は聴いてるんだよね?」

少し俺に身を近づけつつ、タバコをくわえながらカズサ。

「いやぁ、俺はなーんも、聴いてねーよ。ただ今は見守ってる感じかぁ…。てか!カズサの方が知ってんじゃねーの?」

「私知らないから、今ケイタにきいてんでしょーが!」

「レミに聞いたらいいだろっ!知らんものは知らん!なるようになるでしょ!」


「ふーん。なーんか、つまんないのぉ…。てかさぁ!水曜のさぁ!ドラマ最終回見たんでしょ?」

「いやぁ!つーか俺ドラマ嫌いだからよぉ!」

「まーぢで詰まらん男!ケイタは!」


そんな、適当な会話ばかりだった。



二時間くらい飲んだだろうか。
焼酎も半分以上なくなりかけたところ。


「あ、ケイタ!わたし、そろそろ帰るね」


「あー…。うん。わざわざ差し入れありがとなぁ!帰り道気をつけろよ」



内心思った。

何でも無くて…。


俺は胸を撫で下ろした。


アパートの玄関先までカズサを見送る。
と、突然カズサは振り返り。


「ねぇ?まりえのこと気になってるでしょ?カズサ応援してんだからねぇ!ぜんぜーん気にしてないんだから。
何かあったら、相談してね!どーせケイタは奥手なんだから!」





やっぱり、最後にでた…。






一番聞きたくない言葉だった。というか、これを一番確かめたくて来たんじゃないのかとも、正直思えた。


「あっ!てっめぇ!うるせーから!気になんかなってねーし!」


「はいっ!はいっ!何でも言ってよね!ほんとっ!」


「んあっ…。おぉっ!」


俺はその言葉しか返せなかった。


カズサが帰ったあと、俺は一人飲みを続けた。

室内がすごく静かで、考え事をするには最適だった。







月曜日。





月曜日の朝は本当に憂鬱だ。


駐車場近くの喫煙所で一人タバコをふかす俺。



「おーはよっ!昨日はありがとね。運転もお疲れ様」

まりえちゃんだ。


「おー!おはよっ!」

すかさず煙を払って。

「楽しかったねぇ!まりえちゃんも昨日は疲れたでしょー?」

「楽しかったから疲れなんて覚えてないよー!でも昨日アパート帰って爆睡しちゃった…。」


憂鬱さも一気に吹き飛んだ。

その日も五人、講義もカフェテリアでも一緒だった。


夏休みの計画をたてたっけ…。


大学の夏休みは長い。

軽く二か月は休みだ。だいたいの学生は、この時期に、アルバイトをしたり、サークル活動に精を出したり。



いつものカフェテリア。


「ねぇ〜、伊豆あたりどぉ?」

とカズサ。

「レミは草津温泉がいいなぁ!湯もみ見てみたいもぉ!」


「ちゃんと飲み放題ついているプラン探してよー?」

「お酒なんて買っていけばいいじゃーん!」

「上げ膳下げ膳で飲みたいっぺよ!せっかくの旅行だし!」

相棒は、酒以外の意見を述べない。

それ以外は、ウンウンとうなづいている。相棒は酒があれば、どこでも良かったのだろう。

いや…。俺もまりえちゃんと再会して、深い仲になる前までは、相棒と同じ考えだった。



講義がない時間は、パソコン室に集まって旅行先を探す毎日。


一つのパソコンを五人で囲む。


大学生らしさを肌で感じる一コマだったっけ…。


結局、旅行は伊豆に決定した。

五人で五百円を出し合い、大学の書店で、伊豆の旅行雑誌を二冊買った。


「おー!ここいいじゃん!でも、高そぉじゃねぇ?」


「お金貯めないとなぇ。」

「あ!でも、この空中露天風呂は、外せねーなぁ。」

「ちゃんと飲み放題プランついてんのかぁ?」

「お前は酒のことばっかだなぁ…。せっかくの伊豆だぞー!観光とかも頭に入れて考えろよなっ!」

と、呆れる俺。

「なぁ!ケイター!今日夜空いてっかぁ?飲むべよ!」

両手を頭の裏に組んで相棒。



「お前はまーた飲みかよ?!」


「えっ!!カズサも行くっ!レミもまりえも来なよっ!伊豆旅行の相談も兼ねて飲みっ!はいっ!決定!!」

「おぃっ!勝手に決めんなよ!」

「どぉせ!ケイタは暇でしょー?」

「うっせぇしっ!」



お互い言葉は悪かったが、なぜか笑みがこぼれる。



その夜。




「これ!差し入れ!ジャジャーン!シャンパン!」

得意げそうにレミ。

「うわっ!高そうなシャンパン!どしたのっ?」

「この前お父さん達遊びに来て持ってきてくれたの!」


「すんげー!早速!!飲むべよ!」

急かす相棒。

「おいっ!ちっと待てよっ!今皆揃うからっ!」








「カンパーイ!」

「お疲れー!」


親元から離れて、初めて自由になった五人。
何時まで飲んでいても、いつ帰宅しても、誰にも文句なんて言われない。

籠から飛び立った小鳥のようだった。




俺は宅飲みでも活用できるようにと、カクテルの勉強を独学でしていた。
シェイカーの使い方も、バーテンダーには敵わないが、形はそれなりだったし、酒の種類もある程度は揃えていた。


入学したての俺は、通帳を見ながら安い酒ばかりを飲んで楽しんでいたが、この頃から、バイト代もそれなりに確保できて、一般の大学生並みの生活を送れていた。



まりえちゃんとレミには、カクテルを作ってあげた。まりえちゃんには、「ずっと、私を忘れないで」という意味がある、バイオレットフィズ。

パルフェタムール45ml、レモンジュース15mlに、シュガーシロップ1tsp、ソーダ適量だ。

レミには、ミモザを、シャンパン60mlに、オレンジジュース60ml、なんとなくレミにマッチしたカクテルで、花の名前が付いたカクテルだ。


カズサと相棒は相変わらず、ビールと焼酎だった。

カズサに限っては、芋焼酎だ。芋焼酎は、紫芋焼酎の至高の紫か、焼き芋焼酎赤兎馬が美味しい。

それは、さておき。

やはり、カズサは酔うと口が悪くなる。その日も、どうでもいいことで、相棒と口喧嘩していた。

「あっ!テメェあたしの!それ!」

「世の中には、早いもの勝ちって言葉があんだよ!」

カウンターキッチンから、伸びる四人がけのテーブルで、言い争う二人。


喧嘩というよりは、仲良くじゃれ合うかのような。


「なんか、お店みたいだね。これっ!美味しいっ!それこそ、ケイタくんは、お店いかなくても大丈夫だね」

とまりえちゃん。

格好を付けるために、シェイカー技術を学んでいたわけでなかったが、この時だけは、「物は試しから、無駄な物なんてこの世に皆無」という言葉がガッチリ枠にはまった。


ある程度飲みが進むとDJブースが気になってくる俺。


俺のアパートは、防音対策が施されていたから、夜は軽いクラブハウス状態だった。
ヒップホップ、R&B、レゲエ、各ジャンルを一通り流す。目をまん丸くしているまりえちゃん。

相棒はいつもの事の様に始まったと、少し呆れていた。

「お前はどんだけだよ!この音楽バカっ!よっ!まりえちゃんに一丁いいとこ見せたってぇ!」

と嫌みったらしく相棒。

「うっせぇしっ!お前の酒バカよりマシだって!」


夜通し、笑いが止まらなかったっけ…。

俺が、DJの扱い方を説明するがなかなか理解はできなそうだった。

だいたい俺がすることに、まりえちゃんはついてきて、興味を示してくれていた。

この頃から、まりえちゃんは俺のアパートに出入りすることが増えた。

レポート書くにも、勉強するにも、まりえちゃんは俺のアパートにしょっちゅう訪れた。






梅雨もすっかりあけたキャンパスライフ。


俺は季節的に夏が好きだった。


特に快晴の夜空、

夏の空気の匂い、

星が綺麗で、いつまでも満点の星空を見上げていたっけ。

この小説のタイトルを「夜空」にしようと思った程だ。
「金木犀」にした理由は、後々書き表して行くつもりだ。


近くの公園に行っては、静けさの中、犬の遠吠えを聴きながら、缶ビールを飲むのが好きだった。

敢えて夜、レポートの題材を分けて欲しいと託(カコ)つけて呼び出し、休憩にと、二人でアパート周辺を散歩した。


あまり酒も強くなかったが、よく二人で飲んでくれた。


俺が住んでいた栃木の那須周辺は、夏の季節になると、夕立が多かった。

夕立がきて、夜の10時くらいまでは土砂降りの豪雨だ。豪雨が来たときは、熱せられたアスファルトが一気に冷やされて臭かった。

天気予報で「晴れ時々雨」の日は要注意だ。

昼間雲ひとつない快晴でも、一気に雲が立ち込めてスコールのような雨がふる。

一日中雨が降らない快晴の日は週に一度か二度。


快晴の夜だけを願い、お誘いのメールをした。

空に向い天気の神様に、快晴の夜を懇願した覚えがある。

俺の中では「快晴の夜=まりえちゃんと逢える」

何か…織姫と彦星を連想させる様なニュアンスだが、当時の俺は小心者で、何かに託(カコ)つけて、まりえちゃんを誘い出す事くらいしか考えられなかったのだ。

「断られたらどうしよう…」という考えが常に頭の中に付きまとい、あまりにも自分に自信が持てなかった。



ただ、栃木北部の天気の神様は意地悪だったことを今でも覚えている。

週に四回以上は夕立がくる。

スコールの様な降り方をする雨は、アパートから出ることさえ躊躇(タメラ)わせる程。


そんな日は、相棒に頼んで、五人で飲む約束をしてもらい、ドサクサに紛れては、まりえちゃんとの距離を少しずつ縮めていった。

そんな感じで半月はあっという間に過ぎていった。







七月も中盤に差し掛かった頃。





依然、まりえちゃんとは友達関係のままだ。


この日も夕立。


五限が終わる頃、さらに雨足がひどくなった。雲が厚い分、午後五時なのに、辺りが暗かった。


車に猛ダッシュで走る。

鍵穴にキーを差し込むのに時間掛かって全身ビショビショになった。
車に乗り込むと、とりあえずというように一服。


(あーぁ…。この降り方…すごいなぁ…夜も雨続くかぁ…。)


独り言とタバコは、妙に似合う。


ふと隣に目をやると、隣にカズサのワーゲンが止まってた。

すると、俺と同じように猛ダッシュで走る女の子。

よく見たら、カズサだった。カズサもすぐ俺だと分かったみたいだ。

雨に濡れた女の子は、ひどく色っぽく見える。

それが、例えカズサでも。


自分の車に乗る前に、俺の車に乗り込んだ。


「ケイタ、助かるぅ。雨ひどくない?
これじゃ風邪ひいちゃうよぉ」

と、一度雨脚がおさまるまで、俺の車で待機していた。


「風邪引くなよ!これ使いなよ!早くアパート帰って着替えなぁ。お前は風邪引きやすいんだから」

と、ハンドタオルを渡す俺。

普段なら、「お前自分の車に乗れよな!」と発していたはずだったのに…。


「ねぇ、どぉして?どぉしてなの?ケイタ!私に優しくしないでよ!優しくすると、ひきずっちゃうよ!今でも片思いで、好きなんだからね。女の子の気持ちわかってよ。」
とカズサ。


少し怒った口調で、俺を見つめる。

すると、カズサの目から、スゥッ〜と一筋の涙。

その涙の意味を俺は、一瞬で悟った。


この頃になると…。


相棒はレミと二人で行動。

俺もまりえちゃんと二人。

カズサは全体講義の時だけ、一緒の席に座る様な友達関係になっていた。

カズサもカズサで俺らとの距離を取り、新たな友達関係を作りかけていたのだ。

仲間外れとか喧嘩が原因ではなかったが、いつの間にかカズサにとって居心地の悪い場所になっていたのだろう。

勿論、カズサと話すより、まりえちゃんと話してる方が多いし、カズサにとっては、楽しそうで、幸せそうに見えていたのは当然だったのかもしれない。

嫉妬みたいなのもあったのか…。




「なんか、ケイタがずっと遠くにいっちゃうような気がして。なんか悲しいよ!そりゃ、まりえと幸せになってほしいよ!けど、私、私だって!
最初から好きで、まりえよりも先に仲良くなったし。私にはチャンスもぅないのかなぁ?忘れようとか無理に思ったりもしたし、まりえとケイタを応援しようって何度も決心したけど、私にはダメだった」


カズサの一筋の涙が、大粒の涙に変わってた。


そのカズサを見ていて、助手席に座るカズサを思いっきり抱きしめた。
抱きしめると、カズサも俺の背中に手をやって、更に泣きじゃくった。

豪雨がフロントガラスに叩きつけて、前がほとんど見えなかった。
雷もなる中、カズサの小さい体を思いっきり抱きしめた。何ヶ月ぶりか、カズサの匂いが懐かしく感じた。




すると、雨脚が急に収まった。








コンコンコン!



カズサと抱き合ってる中、運転手側のパワーウィンドウを叩く音。

カズサを突き放し目をやると、そこに居たのはまりえちゃんだった。


カズサと俺の状況を悟ったまりえちゃんは、すぐに目をそらし、自分の車の方に去った。


(やっべぇ!見られちゃった。)


多分カズサもそう思っただろう。


カズサはすかさず、俺の手を握って、

「ごめん。でも、もう少し話聞いてっ!!わかってるんだけど!」


俺はカズサの手を離して、豪雨の中まりえちゃんが去った方に走った。
けど、まりえちゃんは居なかった。遠くに、黒い軽が見えたが、豪雨のせいで判断がつかなかった。

ビショビショになって、車に戻る。
カズサは助手席にはもう座ってなかった。



俺は、俺は…。本当に俺は何をしているんだ。

カズサの事を好きという感情で抱きしめたわけではない…。

カズサの寂しさに同情と共感、詫びさえ覚えた。

正にカズサにとっては、『同情するなら友情を返してくれ』だったかもしれない。

この前那須ハイで約束したデート。毎日のまりえちゃんとの積み重ね。思いっきり自分で崩落させてしまった。

思いっきり、ハンドルに頭をうな垂れた。

位置が悪くて、クラックションが響き渡る。

俺は全てが終わりを告げたと落胆した。

まりえちゃんとも、カズサとも…。