STORY7 相棒の正体と、新相棒、そして6人での再スタート
STORY7 相棒の正体と、新相棒、そして6人での再スタート
アパートに帰ると、まりえが溜まりに溜まっていた俺の服を洗濯してくれていた。
「ただいまぁ!」
「あっ!おかえりぃ。ねぇねぇ、康太君って子どうだった?」
「何かねぇ!明後日退院だってさ。頭はガーゼだらけだったけど、命とかには別状はないし、打撲と、少し切り傷があるくらいだってさぁ。」
「へぇー。想像するだけでも痛いよぉ…。でも…ほんとっ、何でもなくてよかったねぇ。」
「俺ら行ったらベッドに座っててさぁ!原因は、肩がぶつかったぶつかんねーとからしいわぁ…。」
「やっぱりぃ!そんな事だと思った!だいたい何で男って喧嘩しちゃうわけ…信じらないっ!ただ痛いだけじゃん!楽しく飲んでればいいのにねぇ。」
「まぁ…確かにその通りだなぁ…。相棒がボコボコにやられて、康太がかばってくれたみたいでさぁ。一番心配なのは、大学にバレないかだよなぁ。」
「お店側としっかり話し合って謝るしかないよねぇ。ねぇーケイタ?そんなことはどぅでもいいって、言ったら康太君に怒られちゃうかもだけど、今度からは、あーいう危ないことしないでね?心配し切れないよ。」
「あっ…。ぅん…。」
「だってさぁ、康太君は私にとってはまだ、友達でもないし他人だも。まだ、会ったこともないし。あっ!ゴメン。」
「あっ⁈」
少ししかめっ面になる俺。
まりえは、正直に、伝えてくれたみたいだった。
まりえの表情を冷静に見つめ直すと、まりえ自身が言い放った言葉を少し言い過ぎたと、理解しようとしていたのを感じた。
「ぅん…。大学とかにバレると面倒くせぇしなぁ!もぉしないよ!だいたい、強がってるフリで、めんどくさい場面は謝ること先決とか思ってっから!」
「って、そういう問題じゃなくて、ケイタは分かってない!まだ、付き合ったばっかりだし、確かにケイタの友達想いの気持ちは分かるけど、待ってる私としては、すごく不安だし、もし、ケイタに何かあったらって思っちゃうんだって!!今回問題になって、警察沙汰とかなったら、謹慎とか悪かったら退学だよ!大学いれなくなったら、どぉするのぉ?そしたら、これから私どぅすればいいか、わかんないよ!ほんと!わかんないよぉ!」
一瞬、俺は沈黙した。付き合って数日なのに、こんなに俺を心配して、思ってくれるなんて。
「わかったよぉ……。ほんとに、わかった。ごめん。ホントにゴメンなぁ。」
生つばを飲みながら俺。
「確かに俺も今は一人じゃないし、まりえが居るってこと、よーく考えて行動するって!相棒だって、喧嘩とかイザコザ!ほんとは好きではないし、あいつは平和主義なはずだから!あいつは!ほんとに優しい奴なんだって!」
カウンターテーブルにキーケースを無造作に置き、ソファにどっかりと座る。
カチッ!カチッ!
フゥッー。
しばらく置いて。
「ってか、洗濯ありがとねっ」
しばらく二人の空間に会話が無かったのが心配になり、まりえの表情を恐る恐る振り返る。
洗濯してくれていたことは、玄関に入りすぐ気づいた。
どちらかというと、違う話題に切り替えたかった。そんな卑怯な面にまで、自分では気づいていた。
「うーうん。分かってくれればいいの!これからも、ずっと一緒に居たいし、色んな季節、ケイタと笑ったり、喧嘩したり、泣いたりしたいから。」
と、優しい笑顔を浮かべるまりえが洗濯機の前に立っていた。
俺を本気で心配してくれていた人に少し罵声を吐き、愛想の無い態度をとってしまった。
吸っていたタバコを灰皿に無理矢理もみ消した。
まりえの優しい大きな両目を見つめると、事の重大さに気づくことができた。
「あっ!私洗濯と掃除は得意だから!気にしないで。」
相変わらず、嘘一つも付けない程まっすぐな笑顔のまりえ。
吸った息を少しずつ吐き出して、すかさず俺は会話を続る。
「まりえが今言ってたことは、わかった。ほんとに自分が、何のために今大学いるのか、まりえと、付き合ってるのか……。よく考えてみっから!俺は二人で、何でも協力していければって思うし、まりえができないことは俺が補うし、俺ができないことは二人で考えていけばいいでしょ?二人で協力しあって、何でも乗り越えていこっ?やっぱ、ぶつかりあっても会話って大切だと思うだぁ」
また、しばらく黙り込む俺。
まりえは、少しはにかんだように笑って、
「ほらっ!掃除手伝って?ぼっ〜としてないで、午後から講義だよ。間に合わなくなっちゃうよぉ!」
「うん!そだなぁ!急がないとだね。ほんとゴメンなぁ。」
「もぉ、わかった。ケイタがわかってくれれば、それでいいのっ!」
確かに俺は、大学デビューだった。高校の時は、どちらかというと普通の高校生だったか…。強い者に頭ばっかり下げて、痛いキャラを演じて、笑いを取るような。
けど、大学に入り、相棒に出会った事によって、今までとは全く違う世界が転がりこんできたのだ。確かに、この話の中でも相棒との出会いに関してはまだ一度も、触れていないが…。
相棒との出会いは、入学式の2日後のゼミだった。
俺も含めて殆どの学生が、友達という友達はできていなかったっけ…。
まず、学科180人を10人グループ程に分割させられた。そして自らが学びたい領域を選択する方式だったっけ…。
そのゼミの中で、ある課題に関し、グループ討論をしたり自らの発言力や、人の話を傾聴する技術などを培う講義だった。俺と相棒は、同じ領域をたまたま選択していたのだ。
まぁ、それはさておき。
相棒は、髪の毛が短髪で初対面時、金髪だった。
何度も言うが大学デビューの俺。
正直、「今時金髪かよ!流行んねーべ!」と言わんばかりに、関わりを持ちたくないと思っていた。よそよそしさが体からにじみ出ていたと思う。
二回目のゼミにて、ゼミ内で更にグループを絞り四人ずつのグループになった。
それが相棒との本当の出会いだった。
相棒は、いちいち変わった事を言う奴だった。だが、頭の回転はずば抜けて早く、他の学生よりきれる奴だと思ったっけ…。
「俺はさぁ、何かの仕事とか夢を持って大学はいったわけじゃねーけど、何か毎日毎日付属施設のジジイ、ババアを見てると、助けたいって気持ちより、一生懸命生きてる!と思うんだ。だから、変にかっこつけて、助けるという言葉で表すより、少しでも助けになる助言とか行動を見つけて、寄り添ってあげたい。そのために、何か見つけてーし、折角大学入ったんだし、少しくらい勉強してみっかって今思った!宜しく!」
全てタメ口の自己紹介。
何か気取ってるようで、下手くそな自己紹介だったっけ…。
俺はこいつは、四年生なのか?、もしくは俺より、何歳上なのか?って思った程、感銘を受けたっけ。
こいつの名前が、謙三。そう!今までの相棒=謙三なのだ。
講義が終わると、謙三からの
「タバコ吸うの?」
の、一言に乗っかり、喫煙所に向かった。
「なんか、自己紹介すげかったなぁ!?あんなこと言うの謙三君だけだよ!」
「ケイタって言ったっけ?その謙三君の、『君』ってやめろし!同級生だぞ!さっきケイタの自己紹介聞いてわかってるし!しかも!ケイタもなかなかおもしれぇ自己紹介だったぞぉ!特に地元の話をして、教授にあっさり(私は興味ないですけどね…。)の一言に不貞腐れて、椅子に座りこんだのも。」
と大笑いする謙三。
「あっ!謙三!てめぇ!それは言うなし!」
咄嗟に出た言葉だった。
「あっ!話かわんだげんじょ、今度飲むべよ!」と俺。
すると、謙三は腹を抱えて笑う。吸っていたタバコを吐き出す程。
「なんだ!その!(だげんじょ)って。まぢでなんつー意味?」
俺は会津弁を馬鹿にされたと思って、
「ふざけんなし!会津弁だし!!!(だけど)って意味だし!」
と、怒り口調で言った。
けど、謙三は笑い続け「わりぃわりぃ、少し言い過ぎた!冗談!冗談、まぢになんなよ!」
と、笑いをおさめた。
その日の夜、早速謙三からメール届いた。
「今から飲まねー?」
夜11時回っていたが、初めて仲良くなった仲間だ、軽く
「いいね、いいね!」
と返した。
普段ならそんな遅くからは飲まない。
15分もしない内に、謙三は近くのコンビニまで来て、俺に電話してきた。
「あっ!お疲れっ!あれっ?お前のアパートローソンのとこだよなぁ?」
「んだんだ!今からローソン行くからちっと待ってて!」
コンビニでたんまりと酒を買った。二人で飲みきれないほど。
二人は朝まで、高校の思い出、大学でのこれからの事、真面目な話もバカ話も、太陽が昇るまで語り合った。本当に適当な会話が殆どだったけど、心から楽しくて、時間が過ぎるのも忘れるくらいだった。女の趣味とか、SEXのプレイとか、AVのジャンルとかも対照的で、お互い馬鹿にしあっては、笑い転げた。
これが俺と相棒=謙三との出会い。最低だったけど、最高な毎日が始まった瞬間だったっけ…。
2日後、康太はガーゼをとって、カットバンを、おでこの周辺に五つもつけて登場した。頭を何針か縫ったから、坊主になってた。
ニューエラキャップが似合う、ストリートビーボーイでお洒落に見えた。
喫煙所で、謙三と康太、三人で居酒屋でのイザコザの件を話してると、カズサがやってきた。
到着するなり、タバコに火をつける。
「おぉぅっ!カズサ!」
「あれっ?新しいお仲間?かっけぇ!まぢでかっけぇんすけど!」
すんなり輪に入ってきた。
カズサは康太を見るなり、
「なーに、この傷?痛そぉ!ねぇ、大丈夫なの?でも、サイコーかっこいいんですけど!」
不思議そうに康太を一部始終観察する。
その時点では、ビーボーイがカットバンを何個もつけ、坊主頭にニューエラを被ってる男が、カズサにとっては、かっこいいのかと俺は解釈していた。
「オイオイ!初めて会った人に、挨拶もねーで、人間観察かぁ。こりゃ、参ったなぁ」
と、苦笑いする康太。
「私?カズサって言うの!宜しくね。ね〜ねー、あなたはお名前はぁ?」
「俺?俺康太だよ!宜しく。」
「ねぇ?ケイタ?いつ仲良くなったの?ちょーかっこいんだけど!」
だいたいカズサは、いつもこんな感じで陽気だ。この時は、康太に一目惚れしていたなんて、気づかなかったっけ…。
それは、もう少し後でわかる。
すると、レミと、まりえが講義を終え、少し遅れて輪に入ってきた。
「こっちがレミで、こっちがカズサ、んでーこっちが、こっちが」
少し戸惑う俺。
すると、相棒がすかさず、
「ケイタの女のまりえ」
「おーいっ!謙三!なんだその紹介の仕方はぁっ!」
まりえは、恥ずかしさを隠しきれず俺の背中を平手で、思い切り叩いた。
「いってぇっ!!!何も打たなくてもいいじゃんっ!まりえ!」
「だって謙三!あんな言い方するからっ!私だって自分で自己紹介ぐらいできますぅっ!」
「仲良いんだね?俺もこんな仲間だったら、大学楽しいのかもなぁ?ほんと今日から宜しくなっ」
と笑う康太。
カズサを見ながら、ニタニタ笑う謙三。
だいたい、謙三は何か企んでいるのだ。
「カズサ?康太に一目惚れでもしたんじゃねーのぉ?」
カズサは、顔を真っ赤にして、
「はぁ?一回で一目惚れしねーしぃ」
と、吸ってたタバコを無理矢理もみ消す。
一回で一目惚れしなかったら、二回は二目惚れかって俺は突っ込みたかったが静かに黙った。だいたい一回で惚れるのが、一目惚れじゃないのか…。
そんな、適当な会話が15分ほど続いた。
俺も含めて六人最高の笑顔だった。夏の太陽が、西に傾き、六人の顔をオレンジに染めた。
ここからが、康太を含めた6人のキャンパスライフの始まりだった。
八月の始まり、夏のセミが尚更うるさくなる頃だった。